アマチュアへの降格

「痛い!」やはり思った通りだった。


自分には大腸憩室症という持病がある。大腸に多数の窪み(憩室)を持ち、それが炎症を起こしお腹が非常に痛くなる病である。血液検査でも炎症の数値が高くなり、白血球の数も異様に増大する。


十数年前には二回ほど入院も経験したが、最近はその病の扱いにも大分慣れ、少しでもお腹の調子が悪くなると、絶食したり抗生物質を入れたりして、三日か四日で回復することがほとんどとなっていた。主治医にも「もうベテランの域に達していますね。」とお褒めの言葉も頂いていた。


 治りかけて三日目。いつも通りであれば、もう一日で完治というタイミングである。しかしその日は幸か不幸か、結婚記念日でもあったのだ。

 
実は、二か月前に超美味しいという評判の銀座の寿司屋に予約を入れていた。
人生は選択の連続である。
「生きるべきか、死ぬべきか」
それほどの迷いではなかったものの、最近出会った中では、かなりの難問との遭遇である。自分の大腸の健康回復力を過信し、そのまま予約通りお店に向かうのか、それとも潔く諦めてキャンセルをするのか。


「初志貫徹」という言葉と「逃げるが勝ち」という言葉が、頭の中で葛藤していた。
「ええい!ままよ!」
結局私は、寿司屋の軍門に下る道を選択した。結婚記念日に家族で美味しいお寿司とお酒を頂く。そのシチュエーションと雰囲気は、私をこの上なく幸せにしてくれた。


 そして翌日、私は動けなくなった。


ベテランの称号を返上し、アマチュアへと降格したのである。

PHOTOM@すぐに大腸憩室炎症

降格グモ